江藤農林水産大臣が種苗法を
改正する目的について
話していた(2020年5月)ので、そのことについて諸々。
私が言いたいこと:
目的が登録品種の海外流出防止
にあるのなら、種苗法を改正するのではなく、
海外で品種登録(育成者権を取得)支援政策に
もっと大きな予算を割いた方がいいと思う。
ポイント
- 植物品種等海外流出防止総合対策事業、
農業知的財産保護・活用支援事業 の予算(補正含む)は
5億円 - 輸出力強化事業の予算(補正含む)は合計367億円くらい
- 品種登録は国ごとに独立している
- 国内法を整備したところで海外流出は止められない
- 種苗を扱う者の法意識
-種苗法の一部を改正する法律案(理由)-
植物の新品種の育成者権の適切な保護及び活用を図るため、
輸出先国又は栽培地域を指定して品種登録された登録品種についての育成者権の効力に関する特例の創設、
育成者権の効力が及ぶ範囲の例外を定める自家増殖に係る規定の廃止、
品種登録簿に記載された登録品種の特性の位置付けの見直し、
品種登録審査実施方法の充実・見直し等の措置を講ずる必要がある。
これが、この法律案を提出する理由である。(農水省HPより引用)
-その前に-
種苗法改正が話題になって2年近くになった。
私がまず感じた違和感が
賛成、反対から議論をスタートしている点。
賛成派に物申す、とか
反対派に物申す、とか、
自分は賛成だ、反対だ、
とか、先に自分の立場を決めておいて
相手をいい負かそうとしている。
私はこうした議論は全く身にならないと
思っている。見ててイライラする。
だからこの記事も
イライラしながら書いた。
しかし、
そのイライラを収めてくれるのは
いつもそばにいる芋(植物)であった。
彼らはこう言っている。
「植物に関わる話やのになんで
うちらは混ぜてくれんの?」
本当にその通りである。
彼らの視点を取り入れれば、
世界はもっと美しく
食べ物はもっと美味しく
なる。
よって、
私は、今回の話に植物も
入ってもらう。
しかし、植物と言っても色々な
奴がいるので今回は、
自分の好きな「さつまいも」
に参加してもらうことにした。
タイトルにある、
種苗法改正で欠けている視点
とは
つまり、
芋視点であることをあらかじめ
申し上げておく。
とはいえ、さつまいもが話す内容は
何処かの国の公文書のように、
私の都合のいいように改ざんされている
可能性もあるので注意していただきたい。
なので、まずは、
公開された政策情報を元に
話を始めたい。
なお、今回参照にした資料は
誰でもアクセス可能で、まとめて
文末に記してある。
大臣会見をみた感じた疑問
大臣の会見(2020年5月19日,22日)をみて
率直に思ったのが目的を達成するための
手段が間違っていないか?だ。
私の目には、
大臣(日本の農業政策)
がやろうとしていることは、
パンツ一丁で
釣竿持って富士山
に登っている人
に見える。
そして、そんな人を見て
ギャーギャ騒いでいる人は、
「おやつに焼き芋持っていくなよ!」
と批判になっていない批判をして
騒ぎたいから騒いで自己陶酔して
いるだけ。
パンツ一丁で釣竿を持って
富士山登ろうとする人に対して
言うべきことは、
「おやつに焼き芋を
持っていくなよ!」
ではなく、
「富士山じゃなくて海行こうよ
(目的地を修正する批判)」
もしくは、
「パンイチじゃなくて
服ちゃんと着て!
釣竿なんていらないよ
(手段を整えてあげる批判)」
だ。
私が言いたいのは、
大臣、
富士山の上で
魚は釣れないのではないでしょうか?
別に、
富士山へ登ろうとするのは構いませんが
パンイチですと死にますよ。
これだけの話。
【会見動画】
【文字】
https://www.maff.go.jp/j/press-conf/200519.html
根底に流れている目的:
農業の生産基盤の強化、
農業所得の向上、
農産物の輸出拡大
これを拒んでいるもの:
海外への優秀な品種の流出
だから、
日本で育成された品種が海外に
流出するのを防がねばならない
↓
種苗法を改正する必要ある
ざっとこんな感じ。
目的は理解できるし
時間と労力をかけて育成した
登録品種を保護し、育成者に利益を
もたらす、というのも理解できる。
1番の疑問は、
種苗法改正で
海外への品種流出が本当に止められるか。
大臣発言
UPOVはですね、76か国加盟と先ほど申し上げましたが、植物の権利を保護しようという国際条約です。今の条約の下ではですね、その条約に加盟している、中国も韓国もこの条約には加盟しておりますけれども、この国に対してですね、登録品種であっても、今の法制度の下では海外流出を止められません。これは大きな問題です。これがしっかり守られて、日本の国から農家が生産して、海外に輸出しているという状況であればですね、農家にはもっと大きなメリット、利益がですね、還元されているはずです。それが、海外に種苗そのものが流出したことによってですね、海外で作られてしまう。
海外流出が起きるのは、
今の法制度が整っていないから、
だから法改正して
海外流出を防ごう、
という発言である。
私は、国内法をどう整備しても
海外流出を防ぐのは不可能だと思う。
私が思っているだけではなく、
国も理解していないはずがない。
なぜなら、
国の機関の一つ
植物品種等海外流出防止対策コンソーシアム
では、
優秀な日本の品種は海外流出する前提
で、
諸外国での育成者権(品種登録)の取得を
推進しているからである。
この機関が言っているからというのは
説得力に欠けると思うので
当たり前の事実を述べる。
育成者権は国ごとで独立しているから。
よって、
A国で品種登録しても
それがB国で同様に保護されるわけでなない。
他国でも育成者権を守りたいのであれば
その国ごとの様式にしたがって
その国それぞれで
申請する必要がある。
例えば、カネコ種苗(株)が
育成したカーネーション「カルミナ」
という品種。
これは国内ではもちろん、
ケニア、EU、コロンビア
の29ヶ国(EUは加盟国全域OK)で品種登録している。
その他の国では申請していないので
仮に、X国で「カルミナ」が一世を風靡しても
カネコ種苗はその権利を主張できない。
いくら、日本で登録した!開発した!
と胸張っても外国で品種登録していなければ
その権利を主張することは
できないのである。
どの品種が海外で登録されているのか
全てを知ることはできないが、
国の事業
(海外品種登録出願経費助成事業)
で登録されたものは調べることができた。
先にあげたカーネーションもその一つである。
さつまいもであれば、
カネコ種苗さんの
品種:HE306
がベトナムでも育成者権を取得している。
なんじゃHE306って?
馴染みのない芋やな、と思うのは間違いで
巷では、「シルクスイート」として
出回っている芋である。
ベトナムのさつまいも生産量は
146万トン、ちなみに日本は99万トン。
(いずれも2006年)
ベトナムもさつまいも栽培適地
のようである。
海外で品種登録をしても
そこにメリットがなければ
費用だけかさんで意味がない。
植物品種等海外流出防止総合対策事業実施規程によれば、
この補助を受ける条件に、
農林水産業の輸出力強化戦略(平成 28 年5月 19 日農林水 産業・地域の活力創造本部決定)において、輸出戦略上重要な品目として位置づけられた品目 (果樹類、いちご等)の品種を原則としつつ、我が国農産物の輸出力強化に資する優先度を勘案した上で、選定委員会が以下の要件を満たすものとして認めたもの。
海外への品種登録や通関手続きに精通した専門知識を有する者等と契約(支援対象となる 品種の育成者権者が別に選定した場合を含む。)し、その契約者又は育成者権者が海外への品種 登録に関する手続き等を行う際に必要となる経費を支援し、その補助率は、我が国農産物の輸出力強化のため重要な品種の場合は定額、それ以外は1/2以内を支援する。
国の政策として
農産物の輸出力強化に力を入れている
ことも忘れてはならない。
これは大臣発言からもよくわかる。
日本の農産物を輸出して農家の所得を
増やすということ。
モノ(クルマにせよ農産物にせよ)
を売って
対価を得るという原始的な金儲け推進
政策である。
輸出促進が攻撃的な政策とするのであれば
海外での品種保護は防御力を高める政策と言える。
では、海外での品種保護政策に
どれだけの予算が配分されているのだろうか?
- 植物品種等海外流出防止総合対策事業、
農業知的財産保護・活用支援事業 の予算(補正含む)は
5億円 - 輸出力強化事業の予算(補正含む)は合計367億円くらい
ちなみに、海外で品種登録をする費用は
国によってまちまちだが、
最大で数百万円にもなる場合もある。
パンツ一丁で富士山を登るというのは、
輸出政策に力を入れすぎて、
防御力(海外での品種保護)
をおろそかにしている姿をいいたかった。
そしてもう一つ、
種苗法改正うんぬんの前に
もっと関心を寄せるべきことは、
種苗を扱う者(農家)の
法意識の低さ
である。
平成 20 年度農業者における 種苗の自家増殖に関する実態調査
(農林水産省委託事業)によれば、
あなたは、種苗法という法律をご存じでしたか。
に対し、
種苗法の認知度は、「大体の内容を知っていた」が約半数を占めるものの、
次いで「聞い たことはあったが内容は知らなかった」が 29.7%、
「知らなかった」が 10.7%となってお り、
「具体的な内容を知っていた」は 10.2%に留まった。
種苗法に基づく品種登録制度をご存じでしたか。
に対し、
品種登録制度の認知度は、
「大体の内容を知っていた」が約半数を占めるものの、
次いで 「聞いたことはあったが内容は知らなかった」が 28.3%、
「知らなかった」が 14.0%とな っており、
種苗法とほぼ同じ程度の認知度であった。
以上からわかるように、
具体的な内容まで知っている人は、
1割程度である、
ということである。
これは、
「ごめん、そんな法律あるの知らんかってん。
でも、美味いから勝手に増やしちゃった。」
という人が何人かはいるはずである。
法律を整えたとしても
今の法意識では
育成者権を守ることは難しいと思う。
仮に、
種苗法改正ではなくて、
ガチガチに
海外流出防止法みたいなのを
作ったとしても、
漏れる。
その理由は簡単で、
海外流出を主導しているのが
人間ではなく植物だからである。
植物を訴えることができるので
あれば話は別だが、
残念ながら今の法制度では
植物を訴えることはできない。
どうせ美味しい芋は
世界各地で作られる。
芋にとっては勢力を伸ばす
ことが当たり前の営みで
海外に美味しい芋が旅をするのは
仕方ないよね、
だって、植物だもの。
例えば、
こういうケースを考えてみる。
X国の外国人観光客(Aさん)が
日本にやってきて、
美味しい焼き芋を食べた。
Aさんは純粋な心の持ち主であったため
自分の国でもこの芋(品種名を”この芋“と呼ぶことにする)が
食べたくなった。
リュックサックにさつまいもを入れ、
植物検疫もこっそりくぐり抜け
さつまいもは無事、X国へ入国を
果たしたのである。
芋1
「ここどこ?」
芋2
「なんか新しい場所みたいや」
芋3
「久々に旅したって感じで
ワクワクするね!」
Aさんは、せっかくなら
この芋をここで食べてしまうより
芋を種芋として、
苗を作って、増やして栽培して
時間はかかるけど来年たくさんの
芋を食べようと考え直した。
この芋1
「あいつ、俺らを食べずに
増やしてくれるみたいだぜ」
この芋2
「超ラッキーじゃん」
この芋3
「仲間が増えるね」
Aさんは、翌年たくさんの芋を
収穫し、友達とかいろんな人に
おすそ分けした。
この芋4
「日本よりこの国の方が過ごしやすくない?」
この芋5
「ほんまそれ」
この芋6
「うちら紫色してるやん?日本てさ
紫色ってだけでなんか氣色悪がられれて
しかも甘くないとか言われて
やっぱ、芋は黄色よね〜とか
ほざきまくってるよね」
この芋7
「それに比べX国では、
みんな大喜びで
食ってくれるよな」
Aさんからおすそ分けをもらったB男は、
恋人のC子にも芋を分けてあげた。
C子はこんな美味しい芋を食べさせてくる
B男のことがますます好きになった。
ちなみに、この時点で、
Aさんが日本から持ってきた芋は
何人の人に渡ったのか不明で
美味しいから増やそう、と
考えた者も少なくなかった。
中には、
D氏
「この芋、Y国に輸出したらよくね?」
と考えるものもいた。
実際のところ、“この芋”は
日本の公的な研究機関で
育成された芋で
日本国内で品種登録をされていた。
育成者
「“この芋”絶対、他の国でも流行りますって!
早く諸外国でも品種登録の手続きをしましょう!」
上司
「手続き面倒臭いし金もかかるし、
外国への申請はしなくていいよ。
日本で流行るかわからないものが
海外で流行るってどうしてわかるんだ?」
育成者
「だからこそなんですよ!
この芋は日本で流行るかもしれないし
流行らないかもしれない。外国でもそう。
でも、流行りだしてからだと手遅れなんですよ!
労力をかけて育成してさらに労力をかけて外国で品種登録するのは
しんどいです。でも、やっといた方がえんとちゃいますかね」
上司
「いい!そんな面倒なことしなくていい!
わしは他にやる仕事がたくさんあるんだ!」
実際、日本国内にこの芋が出回り始めても
消費者受けはよくなかった。
日本人にはあまり受けず
さみしい思いをしていたところに
Aさんがやってきてたわけである。
・
・
・
AさんがX国にこの芋を持って帰ってから
はや5年がすぎた。
X国のDさんは、
Y国へこの芋を大量に輸出し
がっぽり儲けていた。
あの時の上司は、久々の休暇で
Y国を訪れていた。
そして、Y国のスーパーマーケットで
ならぶこの芋をみて思わず叫んだ。
上司
「この芋は5年以上前、
私の研究所で育成した”この芋”ではないか。
どうして”この芋”がここにあるのだ??」
・
・
・
この芋8
「なんか最近、別の国にきたみたいだね」
この芋9
「そうだね、
日本→X国→Y国、次はどこいけるのかな?」
この芋10
「でもさ、日本ってドンマイだよね。
X国でも品種登録して
育成者権保護しておけば、
今頃ロイヤリティ収入で金儲けできたのにね」
この芋11
「ロイヤルホスト?」
この芋10
「ロイヤリティ!いいか、俺らにとっては微塵も関係ない
話だが、人間界ではとても重要な話なんだ。俺たちが生まれたのは、
人間が金と労力と時間をかけたから。金をかけたらそれを回収しさらに
次のあの芋の育成のために金が必要になる。そのために、
苦労して育成した品種は、誰もが勝手に増やしたらいかん。」
芋11
「ほんまに私たちには関係ないね。
私たちは、行きたい場所に行く。
ずっと昔から人間と一緒に旅してきた事実。
これは否定しようないがないわ。
人間を動かしてるのは私たちよ。」
暗黒芋
「そうさ、俺らは、地球上を芋で埋め尽くすために
人間を利用しているにすぎない。
そのために、俺たちを食ったものの心を動かし、
人間の食いしん坊という煩悩を最大限利用し、
いろんな場所で栽培されるよになったわけさ。
芋11よ、
お主も暗黒芋の仲間に入らぬか?
その考えは素晴らしいぞ」
芋11
「確かに私は芋が人を動かしていると言った。
けれど、地球上を埋め尽くすのには興味がないわ。
大昔、かぼちゃが地球上を埋め尽くした結果、
どうなったか知っているでしょ?
利用してるのか利用されているのか、そんなのどっちでもいい。
人間からしたら私たちを利用していると思っているのだから。
私は、これからも人間と共に歩んでいる。
関係性がそこにあるだけ。」
・
・
・
当たり前だが、
法律を破ることができるのは、人間だけである。
人間が海外に品種を持ち出しているのなら
法整備で流出は防げるであろう。
でも、
海外に品種を流出させているのが
人間でないとしたら?
法律を変えても意味はない。
私は、海外流出の真犯人は、
人間ではなく、
植物にある。
だから、
植物は今も昔も海外流出するのがあたり前で
それを防ごうとすること自体が間違っていると
思うのです。
おしまい。
追記
・これから調べたいとは諸外国の品種保護政策と
日本の品種保護政策を比較すること。
・農林水産業へ税金がどの程度投入されているのか
各国の予算配分を調べること。などなど
参考資料・webサイト
・種苗法の一部を改正する法律案新旧対照条文目次
・品種登録制度と育成者権(農林水産省)
・品種の権利保護、品種登録を巡る現状と課題(農林水産省)
・登録品種の自家増殖に育成者権の効力が及ぶ植物について(農林水産省)
・品目別の輸出力強化に向けた対応方向(農林水産省)
・韓国における育成者権取得 ・権利侵害対策マニュアル(農林水産省)
・平成 20 年度農業者における 種苗の自家増殖に関する実態調査
(農林水産省委託事業)
・知的財産権をベースにしたりんごの 生産販売体制の再構築
(黄 孝 春 、山 野 豊、王 建 軍)
・植物品種保護に関する総合案内
https://www.jataff.jp/project/hinsyu/index.html
・農研機構種苗管理センター
http://www.naro.affrc.go.jp/laboratory/ncss/hogotaisaku/index.html
・東アジア植物品種保護フォーラム
http://eapvp.org/ja/
・全国農業改良普及支援協会
https://www.jadea.org/houkokusho/chizai/faq_ikuse_010603.html
・農畜産業振興機構
https://www.alic.go.jp/koho/kikaku03_001040.html
原点に返って、たねが知的所有権の対象となり得るかどうかってことですね🌱
そうなんですよね、公共財としてのタネ、この視点は忘れてはならないと思っています。まだ言葉足らずなところがあると思いますが、順に自分の中で整理していこうと思います。