A子「私たち付き合い始めてそろそろ1年になるね。」
 
 
B男
「そうだね。たくさんの楽しい思い出をありがとう。
今日は、君の好きなズッキーニカレーを作って祝福しよう。」
 
 
A子
「嬉しい。一緒に作ろ。
  B男くん、ズッキーニ切ってもらっていい?
  他の野菜は私が切るよ。」
 
 
B男
「うん、いいよ」
 
 
A子
「そういえば、
 このカレーも今まで何回食べてきたんだろうね。」
 
 
B男
「どうだろうね。
 君の家に遊び行く度に作ってたからなぁ。。」
 
 
こうして二人は思い出話に花を咲かせ、
 
 

 
 
A子の大好きなズッキーニカレーを作り

一緒に美味しいを味わい、

楽しい夕飯を終える
 
 









 
 

はずだった。
 
 

事件が起きたのは、

思い出話に夢中になった

B男が2本目のズッキーニをカットした時だった。

A子が叫んだ。
 
 
A子
あぁぁぁ!!!!!!!!!!
  ダメ!!!!!!
 
ズッキーニはいつも一本で決まっているでしょ!!!
なんで二本目も切るの!!??」
 
 
B男
「あ。

ついうっかりしたよ。

ごめん。
(自分らしくないミスをしてしまった。
一年記念日を前に
少し緊張しているのかもしれないなぁ)
 

でも、いいじゃん。

2本入れる日があっても。

なんでそんなに1本にこだわるのさ。

今日は2本の日だよ

 
 
A子
「どうして。

私がいつもズッキーニ1本だけ入れるの知ってたでしょ!?
   
2本入れるなんて信じられないわ。
   
昔から決まっているの。
   
私のズッキーニカレーに入れるズッキーニの本数は
   
1本だって

B男くんに私のズッキーニ1本に対する

こだわりがわかるはずないわよね。

2本でいいじゃんって。

今日くらい2本でいいじゃんって。

ふざけないでよ。
 
 

B男
「ふ、ふざけてなんかいないよ!

 ついうっかりしてただけじゃないか!

 なんで1本にそんなにこだわるのさ?

 2本じゃダメなんですか??
 
 
A子
「口だけは達者ね。

でもこれでよく分かったわ。
   
無理に分かってもらおうとしてた

私が間違ってたみたい。
   
大切なものを共有できる楽しみはB男くんしかいない

と思っていたのに
   
そうじゃないみたいね。」
 
 
A子は台所を離れ、外出の支度を始めた。
 
 

B男
「こんな時間にどこ行くのさ?」
 
 
A子
「どこだっていいじゃない。

こんな時間って今、

18時よ

まだまだ夜は長いんだから

私の楽しみを奪わないでよね。」
 
  
 
バタン。
 
 
 
力強く閉められた扉の勢いで

まな板のズッキーニが床に
転がり落ちた。

半分に切られたズッキーニ。

無農薬 菜暦書
 
 
その半分がまな板に残り、

その半分が床に転がった。

離れ離れになったズッキーニを見て

B男は
 
 
 
僕たちみたいだ
 
 
 
と一人呟いた。
 
 
B男
「あぁ。
 なんだよ。
 今日のA子。
 いいじゃないか、2本で。

 何がいけないんだよ。

 わけわかんないよ。
    
 誰か僕を助けてくれないか。」
 
 
???「おーい
 
 
B男
「ん?」
 
 
???
ここじゃよここ!早くワシを拾ってくれい!
 
 
B男は転がり落ちたズッキーニを拾い上げ

まな板においた。
 
 
???
拾ってくれてありがとのぉ。
 
腰の骨が折れるかと思ったわい

 
 
B男
「あなたは誰ですか?」
 
 
???
ん?ワシか?ズッキーニの神様じゃよ
 
 
B男「!?」
 
 
ズッキーニの神様(以下、ズキン神)

「君が助けを呼んだから出てきたのじゃ」

 
 
B男
「え。てか、
神様って自ら名乗るものなのか。

トイレにもべっぴんさんになれる

神様がいるくらいだから

ズッキーニにいても不思議ではないけど。」
 
 
ズキン神
どうかしたのか?」

B男
「神さまなら知っているはずでしょ。
 
さっきの一部始終。

僕はもうダメだよ。

これでA子ともお別れさ。
 
 
  ズッキーニ1本で始まる恋もあれば
  ズッキーニ1本で終わる恋もある。
 
 
こんなに辛い思いをするなら、

A子と付き合うんじゃなかった。

ズッキーニカレーを作るんじゃなかった。

2本じゃダメなんですか?

って政治ギャグ入れるんじゃなかった。

A子が扉を閉めた後、

全力で追いかければ良かった。

あぁ。

もう終わりだよ。

何もかもね。

彼女が今どこにいるのかさえ分からないよ。

さぁ、神様、

助けてよ。

こんな僕を助けてよ。

神様ならできるんじゃないの?」
 
 
ズキン神
「・・・」
 
 
B男
「黙りこまないでよ。

 僕は今までA子と
 
 楽しい時間を過ごしてきた。
   
 これからもそのつもりでいた。

 でも、
 
 もう、
 
 何もかもお終いさ。」
 
 
ズキン神
それで?
 
 
B男
「いや、

 だからさ。

 僕はこれだけ悲しみにくれているんだよ。

 back numberの失恋ソングでも聴いて

 この気分を楽しむよ。
 
 ハハ。

 目の前に神様が現れても

 なんにも変わらないじゃないか。」
 
 
ズキン神
で?
 
 
B男

「もう!!

 鬱陶しいな!!

 どうせ、

神様には僕の気持ちなんて

分かりっこないさ。
 
 
   僕がどれだけA子を好きなのか。
    
   手を繋いで街を歩くその温もりを。

   ドライブをして過ごす楽しい時間の尊さを。

   隣で目覚めておはようと笑うA子の愛しさも

    ズッキーニ神様になんてわかるはずないんだ!!
 
 
ズキン神
そんなに好きなら、
 
黙ってA子のために何かアクションを

 
起こせばよいじゃないか。

 
 
  
B男
「・・・」
 
 
 
ズキン神
「これから、

どうするんじゃ?」
 
 
ズキン神はそう言い残し

朝霧が晴れるかのように消えていった。
 
 
B男は、
A子の代わりなどいないことに

気付いたのであった。
 
 
B男
「でも、

どうやって?

どうやって。

どうやったらA子は戻ってきてくれるんだ。

いや、待てよ。

どうやってって。

方法なんていくらでもあるじゃないか。

違う。
 
 
さっき、
気付いたじゃないか。
 
 
僕がA子のことをどれだけ好きか。

なぜ好きかも
 
全てわかってるじゃないか。
   
 
  ・

  ・

  ・
 
  
はっ。

そうか、

A子がまた戻ってきてくれる

保証なんてどこにもない。

けれども、

僕は僕にできるだけのことをしよう

A子が戻ってきた時のために。
 
 
確かにズッキーニはもう半分に切られてある。

これはどうしようも無い事実だ。

 でも待てよ。

半分に切られたズッキーニが元に戻らない常識は

本当だろか?

A子が

戻ってきたらこう言うんだ。
 
 
  “新しい手品を見せようとしててん。
   半分に切ったように見せて
   実は切っていませんでしたよって言う手品だよ”

 
   
 でも、
一度、

切ったものをくっつけるって。
   
ボンドでつけるか

いやいや、

ボンドはあかんやろ。

糊はどうだろう

いやいやいや、

ボンドと同じやん。
         
グーグル先生に聞いてみよう。
  
   『ボンドを使わずズッキーニを再度くっつける方法』

 ポチッとな。
    
    
んー、、
     
 
こんな方法あるわけないかぁ。
 
   
んー、、
 
 
ん?

なんだこの動画は?
    
   “無農薬ズッキーニ 切ったやつをくっ付けて一晩おいたら 再度くっついた話
   

   
なんやて!

切りたてのズッキーニの断面からは

ズキンエキスが出て

乾かぬ内に再度くっ付けて置くと、

暫くすればくっつくだと!?

まだ、間に合うか。

僕が切ってしまった

2本目のズッキーニ。」
 
 
B男は、

急いで台所へ戻り、

ズッキーニを再度くっ付けた。

ズッキーニの断面からは、

ズキンエキスが出ていた。

無農薬 菜暦書

 
 
B男の流した涙が乾く前に行動した結果が

実を結んだのである。
 

涙が乾く前に行動し、
 
 
ズキンエキスが乾く前にも行動する
 
 
B男はズッキーニを眺めた。
 
「ズキン神さま、
 
 
どうかお願いです。
 
 
ズッキーニがくっついたように、
 
 
僕たちの仲も

もう一度、
 
 
くっつかせてください。」

 
 
まだ完成していないカレーに

最後の仕上げを施し

B男は独りでこう呟いた。
 
 
僕はもう一回、
 
 
君と
 
 
カレーが食べたい」

 
 


 
 
気づけばあたりは真っ暗になり
 
月の光がカレーに差し込んでいた。
 
それから、


 
 
ガチャッ。
 
 
カレーも冷えたらまた温め直せばいい。
 
 
ズッキーニも離れたらまたくっ付けたらいい。
 
 
二人の仲が離れても
 
 
またくっつくように
 
 
 
A子
「さっきはごめん。

どうして私はそんなに

一本にこだわっているのか。

じっくり考えてみたんだ。

『わら一本の革命』って

本を読んだことあるの。

そのタイトルが身に付いてて

何もかも一本でなきゃと思っていた。

柔道をしている時もそう。
 
 
一本が全てだった
 
 
でも、気づいたの。
 
別に
 

2本でもいいって
 
 
3本でもいいし、

4本でもいい。

何十本でもいい。
 
  

カレー仕上げてくれてありがとう。

もう完成したんだね。」

B男
「なに言ってるんだい。

まだ完成していないよ。
       
このカレーは

君と

一緒に

食べて

初めて完成するカレーさ。
   

二人で食べるから美味しいんだよ。
 
 
君と作るから美味しいんだよ。
 
 
 一緒に食べよう。
 
    
   これから何回だって、
   
 
   何十回だって。

  
  
   何十本だって…






ズキン神
あれ?
 ワシは結局・・・




お終い



ご覧いただきありがとうございました。

更新2022/08/11
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